インタビュー・領空侵犯

さて、日本経済新聞に「インタビュー・領空侵犯」という週イチ連載記事があります。その名のとおり、ある分野について他の専門の人物が論評するという内容です。

9月27日と少し前の記事になりますが、そのインタビューで京大経済学の教授がプロ野球問題について触れています。このあたりの視点は流石に経済紙の面目躍如です。
Webに転載されていない記事でもあり、なかなか興味深いので全転載しちゃいます。

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インタビュー・領空侵犯 もう一つの「プロ野球問題」
京都大学教授 橘木俊詔(たちばなき・としあき)氏

挑戦可能な社会 閉ざすな

――史上初のストライキにまで発展したプロ野球の再編問題が大きな関心を集めています。ストは何とか収拾されましたが、今回の問題を経済学者の立場から大変懸念されているとうかがいました。

「問題点を私なりに整理すると三つあります。一つは選手の年俸が高くなりすぎた点、二つ目は『経営が苦しい』と球団は口では言うが、その実、労務コストすらいぜん公開していない点。三つ目が一連の騒ぎの中で、選手獲得の際に裏金を支払ったり法に触れるような不公平・不公正なことを日常的にやっているというダーティーなイメージが世間に広がってしまった点です」

「選手にも責任はありますが、何より責任が重いのは球団です。本当に苦しいならきちんと情報公開するのが筋。また、飛び交う裏金のうわさは不明瞭な経営、どんぶり勘定体質を想起させます。プロ野球チームはある種社会的な『公器』であると球団オーナーは自覚してほしい。私は球界のごたごたが今後も繰り返されたりするなら日本の社会全体に深刻な影響を与えると思います」

――深刻な影響?「たかが選手」ではありませんが、結局は「しょせん、一プロスポーツ」と考えている人も多いと思うのですが。

プロ野球は閉塞感が強まりつつあった日本社会において、誰でもチャレンジ可能な世界の象徴でした。もし、その世界が輝きを失えば、日本社会のダイナミズムはさらに失われてしまいかねない。私はそれを大変心配しているのです。スポーツならサッカーのJリーグなど他の機会があるといわれるかもしれません。しかし、高校野球人気がいぜん根強いことが示すように、多くの人にとってプロ野球はいぜんあこがれの対象であり、挑戦可能な社会の象徴なのです」

――それが崩れると何が起きますか。

「私は既に総中流社会はかなり前に崩壊し始めたと指摘していますが、このまま進めばあと数年で日本はかなりはっきりした階層社会となり、それは誰の目にも分かるようになるでしょう。高い能力があっても発揮できない人が増え、階層社会の壁が多くの人たちの前面に立ちはだかるようになれば、有能な人ほど日本からいなくなり、新しいものは日本からほとんど生まれなくなる。国際競争力も決定的なダメージを受けると見て間違いないでしょう」

「その姿はあたかも大リーグに有望な選手が次々と流出しつつある昨今の日本のプロ野球界とも重複します。それを防ぐには日本社会を大リーグ並みに魅力のある社会とするように努力しなければいけない。その意味で、たかがプロ野球ではないのです」

[橘木氏ひと言] 野球は「二世」が必ずしも成功しない点で日本社会の希望だった。

[聞き手から]
昨年の日本シリーズには福岡ドームまで応援に駆けつけた阪神ファン。野球を見る目は熱く、新規参入でややかすんだ球界の構造問題を手厳しく突く。
「FA制などで急騰した選手の年俸は日本の市場規模を考えると明らかに払いすぎ。年俸と成績の相関関係を実証分析してみたい」と労働経済学者らしい関心も見せた(経済解説部・館道彦)

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引用は以上です。

前半部分の主張、特に三点の指摘事項は正鵠を得ています。
このあたりの指摘はWeb上では散々なされていますが、日経新聞のように政財界人が読んでいるであろう紙上で、権威のある方の意見として指摘がなされたという点を大きく評価したいと思います。たとえば俺が朝日の「声」欄で同じ主張をしたとしても、「たかがNEETが」で終わってしまいますんで。
中盤の主張は正直苦しいかなとも思います。「誰でもチャレンジが可能な世界」は、野茂以降は日本球界からメジャーリーグへと移行していると思いますんで(その野茂以降の流れを作った遠因が近鉄球団の責ということも皮肉だなぁと思いますが)。
結論に関しては異議なし。

それにしても魅力と伝統のあるバファローズブレーブス〜ブルーウェーヴの系譜を断絶するという大きすぎる代償を払った今、「誰でもチャレンジできる世界」を取り戻すことができるのか、という運命の岐路に球界が今立たされている、ということは指摘どおりで間違いありません。
しかし舵取りをするのがオーナーに請われて(そしてファンは請うていないのに)帰ってきた根来氏と、その後ろにいるオーナー連であるという事実は変わりなく、暗澹たる気分にさせてくれるのですが、今後も球界に対して橘木氏のようにある程度発言力のある方がもっと声を上げて、オーナー連への圧力となってくれないかと、本当に微かにではありますすが期待をしています。

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なお、今日の項は純然たる無断転載です。日経様に文句つけられるまでは載せる予定ですが、もし見つけちゃってダメって話ならすぐ削除する準備はありますです>日経の方
あと、日経に通報しますた!とかしないで下さるとすごく助かります>読んで下さっている方